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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)438号 判決

控訴人 大千葉建設株式会社

右代表者代表取締役 厚海熊太郎

控訴人 株式会社明石建設

右代表者代表取締役 明石巌

控訴人 伊勢屋金物店こと 高瀬昭

右三名訴訟代理人弁護士 川本赳夫

被控訴人 内田多計子

被控訴人 内田稲作

被控訴人 五島商事株式会社

右代表者代表取締役 内田稲作

右三名訴訟代理人弁護士 円城寺宏

被控訴人 有限会社ヴェロニカ

右代表者取締役 片山達也

被控訴人 有限会社ココット

右代表者取締役 片山達也

主文

一1  原判決中、控訴人大千葉建設株式会社の被控訴人五島商事株式会社に対する請求に関する部分を取消す。

2  被控訴人五島商事株式会社は控訴人大千葉建設株式会社に対し、金八七万円及びこれに対する昭和四八年五月二一日から支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

二1  原判決中控訴人大千葉建設株式会社の被控訴人内田多計子に対する登記手続・賃貸借契約無効確認・詐害行為取消請求、同有限会社ヴェロニカ、同ココットに対する請求(訴取下にかかる債権不存在確認・競売申立取下請求を除く。)に関する部分を取消す。

2  右請求及び控訴人大千葉建設株式会社が当審で追加した請求に関し、本件を千葉地方裁判所に差戻す。

三  控訴人大千葉建設株式会社の被控訴人内田多計子に対する金員請求及び同内田稲作に対する請求に関し、控訴を棄却する。

四1  控訴人株式会社明石建設、同高瀬昭の控訴を棄却し、当審で追加した各請求につき訴を却下する。

2  右控訴人両名に関し、原判決主文第二項「主位的請求を棄却し」を「金員請求を棄却し、その余の主位的請求を却下し」に更正する。

五  訴訟費用は、主文第二項の請求に関する部分を除き、一、二審を通じ、控訴人大千葉建設株式会社と被控訴人五島商事株式会社との間に生じた分は同被控訴人の負担とし、その余は控訴人らの負担とする。

六  この判決は、主文第一項2に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

控訴人らは「原判決を取消す。

(主位的請求)

1  被控訴人多計子、同稲作、同五島商事は各自、控訴人大千葉建設に対して金八七万円及びこれに対する昭和四八年五月二一日から、控訴人明石建設に対して金二五〇万円及びこれに対する昭和四八年八月一日から、控訴人高瀬に対して金七〇万円及びこれに対する昭和四九年二月一日から、各支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人多計子は控訴人らに対し、原判決別紙物件目録記載の建物(以下、本件不動産という)について静岡地方法務局富士支局昭和四八年一月一八日受付第一二二八号同月一六日付根抵当権設定契約を原因とする根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

3  被控訴人ココットは、控訴人らに対し本件不動産について同支局昭和五〇年五月一三日受付第一一七〇四号、同年三月三一日付根抵当権譲渡契約を原因とする根抵当権移転登記の抹消登記手続をせよ。

4  被控訴人ココットは、控訴人らに対し本件不動産について同支局昭和五〇年五月一三日受付第一一七〇五号、同年三月三一日付根抵当権変更契約を原因とする根抵当権変更登記の抹消登記手続をせよ。

5  被控訴人多計子は控訴人らに対し、本件不動産について同支局昭和四八年四月二〇日受付第一一〇〇二号、同月一三日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

6  被控訴人ココットは控訴人らに対し、本件不動産について同支局昭和五〇年四月一日受付第七九七五号、同年三月二五日付売買予約を原因とする所有権移転請求権の仮登記の抹消登記手続をせよ。

7  被控訴人ヴェロニカが同多計子との間で昭和四八年四月一〇日付契約書をもってした本件不動産の賃貸借契約が無効であることを確認する。

8  (当審で追加した請求)2の登記にかかる根抵当権設定契約の原因たる債権関係が存在しないことを確認する。

9  (当審で追加した請求)3の登記にかかる根抵当権譲渡契約の原因たる債権関係が存在しないことを確認する。

(主位的請求2ないし7に対する予備的請求)

1  被控訴人多計子が同五島商事との間でした主位的請求2の根抵当権設定契約を取消す。

2  (当審で追加した請求)被控訴人ココットが同多計子との間でした主位的請求3の根抵当権譲渡契約を取消す。

3  (当審で追加した請求)被控訴人ココットが同多計子との間でした主位的請求4の根抵当権変更契約を取消す。

4  被控訴人多計子が同五島商事との間でした主位的請求5の売買契約を取消す。

5  (当審で追加した請求)被控訴人ココットが同多計子との間でした主位的請求6の売買予約を取消す。

6  (当審で追加した請求)被控訴人ヴェロニカが同多計子との間でした主位的請求7の賃貸借契約を取消す。

7  主位的請求2ないし6同旨

訴訟費用は、一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに金員支払部分につき仮執行宣言を求めた。

被控訴人らは、「控訴人らの控訴及び当審で追加した主位的・予備的請求を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

第二主張

当事者双方の事実主張は、次に訂正付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決六枚目表二行目「一一日」を「二一日」に、同六行目「五〇〇万円」を「五五〇万円」に、七枚目表七行目「一八日」を「一六日」に、八枚目裏六行目「第二〇〇二号」を「第一一〇〇二号」に、九枚目表二、三行目「第七九七号」を「第七九七五号」に、同七行目「同日」を「同年五月一三日」にそれぞれ改める。

一〇枚目裏初行「求める。」を「求め、予備的に、詐害行為取消に基いて悪意の転得者たる被控訴人ヴェロニカに対し右賃貸借契約の取消を求める。」に改める。

同一〇行目「なして、現に係属中である。」を「なした。」に改め、一一枚目表初行「はずがない。」の次に「また、被控訴人多計子は同五島商事に対し債権を有せず、しかも、四の冒頭に述べたように債権が発生するはずもないのである。」を加え、同二行目「代位して」から同四行目「取下げ」までを「代位して、主位的請求8、9の確認」に改める。

二  被控訴人らの主張として次のとおり加える。

控訴人大千葉建設の被控訴人五島商事に対する本件約束手形金債権は、満期の日から三年の経過により時効消滅したから、同被控訴人においてこれを援用する。

三  控訴人大千葉建設の主張として次のとおり加える。

控訴人大千葉建設の本件請求にかかる手形金債権については、同控訴人は、昭和五一年一月七日被控訴人五島商事らを被告として原裁判所に訴を提起し(同支部昭和五一年(ワ)第二号約束手形金等請求事件、以下前件という。)、前件は本件に併合されたが、同控訴人は原審裁判官の求めにより昭和五三年二月二四日前件を取下げた。右経過からすれば、前件の訴取下に拘らず、右債権の消滅時効につき前件訴提起により中断の効力が存する。

第三証拠《省略》

理由

一  控訴人大千葉建設の被控訴人五島商事に対する請求について

《証拠省略》によれば、控訴人大千葉建設が被控訴人五島商事の振出した同控訴人主張のとおりの記載ある約束手形一通を所持し、これを満期に支払場所に呈示したことが認められ、右事実によれば、同被控訴人は同控訴人に対し右手形金及びこれに対する同控訴人主張の利息を支払うべき義務がある。

同被控訴人は右債権につき消滅時効を援用するが、本件訴訟が昭和五二年六月二一日に提起され、その原審第一回口頭弁論期日(同年七月一二日)に前件が本件に併合され、また本件原審第二回口頭弁論期日(昭和五三年二月二四日)に同控訴人の代理人において前件を取下げ、同被控訴人らがこれに同意したことが記録上明らかであるところ、弁論の全趣旨によれば、前件は、同控訴人が同被控訴人らを被告として昭和五一年一月七日に原裁判所に提起したもので、本件約束手形金請求とその請求原因を同じくすることが認められる。

右事実によれば、同控訴人は、同被控訴人に対し本件約束手形金債権の時効完成前にその支払を求める訴を提起し、その後提起された本件訴は右手形金請求については民事訴訟法二三一条により不適法であったが、前件訴取下により適法となったものであり、前件の訴提起による時効中断の効力は本件訴の係属によりなお存続するものとみるのが相当である。前件の訴取下により昭和五一年一月七日の前件訴提起による時効中断の効力を否定するのは、民法一四九条、民事訴訟法二三七条一項の形式にとらわれ、当該請求が前件訴提起以後引続き裁判所に係属している点を無視するもので、適切な解釈となしえない(最高裁判所昭和五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一七九七頁参照)。よって、控訴人らの時効の抗弁は採用しない。

二  控訴人大千葉建設の被控訴人多計子に対する金員支払請求及び同稲作に対する請求について

控訴人大千葉建設は、被控訴人五島商事の右債務につき、同多計子、同稲作も同五島商事と連帯して弁済の責を負うべき旨主張するが、その主張を肯認すべき根拠は見出しえない(むしろ、前記手形振出当時被控訴人五島商事は、その代表者たる田端義勝(以下田端という。)と実質上同視されるべきであったことは後述のとおりである。)。よって、同控訴人多計子に対する金員支払請求及び同稲作に対する請求は失当である。

三  控訴人大千葉建設の被控訴人多計子、同ココット、同ヴェロニカに対する登記抹消及び賃貸借契約無効確認の主位的請求について

《証拠省略》によれば、田端は、かねてから自動車販売や砂利・砕石の運搬・販売等を業としてきたところ、昭和四一年一〇月一七日資本金の殆んどを自ら出資して被控訴人五島商事を設立し、自ら代表取締役に就任し、以後昭和四八年四月頃まで個人と会社(同被控訴人)との区別を意識しないで事業を続けてきたこと、同被控訴人は、昭和四六年富士市内の高速道路沿いに本件不動産を建築しレストラン「ヴェロニカ富士」として営業を開始し、昭和四七年中には同被控訴人の事業内容としては右店舗におけるレストラン業のみとなっていたところ、内田洋子(昭和四八年九月まで田端の妻)とその母被控訴人多計子や片山達也らは昭和四八年四月頃から田端を斥けて被控訴人五島商事の業務を専行し、同月本件不動産を被控訴人多計子の所有名義とし、その頃洋子を代表者とする被控訴人ヴェロニカを設立して同被控訴人においても本件不動産の前示店舗でレストラン営業を開始し、実際には前示「ヴェロニカ富士」の経営を継承するような形となったため、被控訴人五島商事は同月頃事実上廃業するに至ったこと、同被控訴人は、多額の負債を有し、その帰属につき争いのある本件不動産を除いてはめぼしい資産がないことが認められる。

よって、控訴人大千葉建設は被控訴人五島商事に対する債権保全のため、民法四二三条の債権者として同被控訴人に代位して主位的請求たる登記手続及び賃貸借契約の無効確認(事実第一主位的請求2ないし7)を訴求しうる適格を有するものというべきである。

四  控訴人明石建設の請求について

《証拠省略》には、控訴人明石建設代表者明石巌の被控訴人五島商事代表者田端と訴外館山建設有限会社代表者土屋豊が昭和四八年五月七日頃に訪ねてきて、約束手形二通(一通は金額二五〇万円・甲第五一号証、他は金額三〇〇万円・甲第五三号証)を持参したので、田端に二五〇万円、土屋に三〇〇万円を渡した旨の供述が記載されており、田端名義の酒井泉あて昭和四九年一二月一日付覚書には、明石建設よりの手形割引分二五〇万円の債務を認め、その返済を約する旨、また、酒井泉名義の田端あて同年一月二五日付通告書には、田端が金額二五〇万円の手形を詐取して明石建設で現金化した旨、さらに、田端名義の(有)スバル映劇代表者酒井泉あて昭和四八年五月七日付、同月八日付預り(借用)証にいずれも金額三〇〇万円の手形(手形番号は前掲二通の手形に符合する。)預り(借用)の各記載もある。しかるに、右二通の手形は、いずれも(有)スバル映画劇場(代表者酒井泉)の振出であるところ、その一通に受取人・第一裏書人として館山建設有限会社(代表者土屋豊)の記載があるが、被控訴人五島商事も田端の名もこれに記載されていないことは甲第五一、第五三号証の記載から明らかである。そして、田端は当審において右金員受領を否認する証言をなしている。

以上に述べたように、控訴人明石建設の被控訴人五島商事に対する貸金については、これを窺わせる証拠もないわけではないが、これを裏付ける的確な文書もないので、これを認めることができない。付言すれば、昭和四八年五月七日当時被控訴人五島商事は事実上廃業し、その代表者田端も事実上その業務を離れていたことはさきに述べたとおりであるので、田端が同被控訴人の代表者としてかような金員を借受けることはにわかに肯認しえないのである。

よって、控訴人明石建設の被控訴人五島商事に対する貸付の事実はこれを認めえず、これを前提とする同被控訴人に対する請求、同多計子に対する金員支払請求、同稲作に対する請求はいずれも失当であり、同控訴人のその余の請求は、被控訴人五島商事に対する債権の存在が認められないので、原告適格を欠く。

五  控訴人高瀬の請求について

《証拠省略》には、控訴人高瀬は被控訴人五島商事あるいは田端と従前取引があり、二五〇万円位の売掛金債権を有したところ、同被控訴人代表者田端が昭和四八年一〇月初頃約束手形一通(和泉建設株式会社振出、金額七〇万円)を持参し、駿東企業有限会社に資材を納入し、右手形割引金残額は被控訴人五島商事に対する債権に充当してもらいたいと申入れてきたので、右手形を受領した旨の記載があり、《証拠省略》もこれに副い、また、田端は、当審証人尋問において右手形と引換えに控訴人高瀬から四〇万ないし五〇万円程度の現金を受取った旨供述する。しかし、右手形には被控訴人五島商事の名も田端の名も顕われていないし、控訴人高瀬が右手形授受以前に同被控訴人に対し債権を有したことを裏付けるに足りる文書もなく、昭和四八年一〇月当時被控訴人五島商事が事実上廃業し、田端も事実上その代表者の業務を執っていなかったことはさきに述べたとおりであるから、前示証拠だけでは到底控訴人高瀬の被控訴人五島商事に対する貸付の事実を肯認することができない。

よって、これを前提とする控訴人高瀬の被控訴人五島商事に対する請求、同多計子に対する金員支払請求、同稲作に対する請求はいずれも失当であり、同控訴人のその余の請求は、被控訴人五島商事に対する債権の存在が認められないので、原告適格を欠く。

六  以上一ないし三のとおり、原判決中控訴人大千葉建設の被控訴人五島商事に対する請求を棄却した部分は相当でないから、これを取消して右請求を認容し、同控訴人の被控訴人多計子(金員支払請求に限る。)、同稲作に対する請求を棄却した部分は相当であるからこの点につき控訴を棄却し、同控訴人の被控訴人多計子、同ヴェロニカ、同ココットに対する登記抹消、賃貸借契約無効確認の主位的請求につき訴を却下した原判決(原判決主文第二項に「主位的請求を棄却し」とあるのは「金員支払請求を棄却し、その余の主位的請求を却下し」の誤記であることがその理由説示に照らし明らかである。)は相当でないから、右部分を取消したうえ、民事訴訟法三八八条により事件を原裁判所に差戻すべきであるので、差戻すに先立ちその予備的請求についても原判決を取消すほかなく、当審で追加された確認請求(事実第一主位的請求8及び9、なお、右請求の趣旨・原因は必ずしも明らかといえないが、今後の手続において明確にすれば足りる。)については、原裁判所において併せて審理するのが相当である。

四、五のとおり、原判決中控訴人明石建設、同高瀬に関する部分(但し、前段のとおり原判決主文第二項に誤記があるのでこれを更正する。)はいずれも相当であって、右控訴人両名の控訴は理由がないから棄却し、また、右控訴人両名が当審で追加した請求は、いずれも被控訴人五島商事に対する債権の存在を原告適格として、債権者代位権ないし債権者取消権を行使する請求であるところ、右債権の存在を肯認しえないこと前示のとおりである以上、訴はいずれも不適法であるから、これを却下すべきである。

よって、訴訟費用の負担(差戻にかかる分を除く。)につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 倉田卓次 裁判官 井田友吉 高山晨)

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